ブラックは無くならない

ちょっと長いけど、前の会社の社長にやった話を聞いておくれ。

 

俺は大学を卒業した後で、とある会社に就職したんだ。

 

そこはかなりブラックな職場だった。

 

忙しい時期は四日連続徹夜で働かされて一時期心が壊しかけたり、同僚の女の子がトイレで倒れて救急車で運ばれたりと、かなり大変な職場だった。

 

そのかわり同僚や直接の上司が良い人ぞろいで、フォローしてくれたり励ましあったりしたおかげで、どうにか日々をしのいでいた。

 

特に助けてくれたのは、取締役で部長をしていたAさん。

 

社長が

 

「仕事が終わるまで絶対に帰るな」

 

と命令して自分だけ帰ったあと、

 

「俺の権限で帰っていいから、みんな休め」

 

と言ってくれたり、飲み会や食べ会を開いてはみんなをねぎらってくれたりしてくれたおかげで人望はあった。

 

俺はそんなAさんには最後までついていこう、と思っていた。

 

時間が経ってから俺は東京支社へ転属になったが、そこではさらなる激務が待っていた。

 

支社といっても上司と部下である俺の二人だけ。

 

上司は恐怖政治を敷き、命令は絶対であり、毎日早朝から深夜まで。

 

その睡眠時間も2〜4時間寝ている以外は全て仕事という状態だった。

 

勤務時間が午前4時から午前2時まで、という日々。

 

そんな中では車を運転中に何度か死にかけ、仕事中に1日に2回事故をするという、ありえない経験をさせられた。

 

本当に死に掛けると、自分の意思とは関係なくふるえがとまらないのな。

 

さらに怪我もした。

 

車は自分の車を営業に使われてたが、それもべこべこ。

 

なのに病院にも行かせてもらえず、翌日も仕事をさせられた。

 

もう限界だと思った俺は、会社を告発する文章をつくり、監督官庁に働きかて、会社をおどすことにした。

 

会社は辞めるつもりだったが、少しでも会社に損害を与えないとやってられないと思ったから。

 

会社はダメージを受けることになるが、一応世話になった取締役であるAさんには連絡をした。

 

Aさんは驚き

 

「一日待て」

 

と言い、翌日社長から猫なで声の電話があり

 

「ごくろうさん。今の仕事はもういいから、A部長の下で好きに働いてくれ」と。

 

Aさんが俺の行動をたてに社長に働きかけて、人事異動を例外的にしてもらったのだった。

 

Aさんの元では面白いように仕事が進み、俺は会社でもトップクラスの成績を収めていった。

 

そんな中で、Aさんから秘密をうちあけられる。

 

そこの社長は総務の女を愛人にしていて、いけない薬のパーティーにも参加しているなど。

 

強権的な仕事の体制も変えられないため、数人の人間と同時に会社を抜け、新しい会社を作るという計画だった。

 

その計画に自分も参加することになった。

 

社長がいないすきに、有志で深夜、本社内の資料を調査していたところ、自分他数名に過酷な仕事を繰り返させ、退職においこむのは社長の既定方針だったことも明らかになる。

 

(愛人である総務のメモにより発覚)

 

また金持ちのお年寄りから大量に金をまきあげさせて、会社で使うという詐欺行為を働いていることも分かった。

 

そんな会社の利益に貢献するつもりはさらさらなくなった。

 

秘密会議を繰り返し経営計画を立て、資金を調達し、取引先を味方につけて、自分は退職。

 

一人、また一人と会社を退職する中で、準備を整える。

 

(これまでが前提)

 

そして新しい会社がスタートした。

 

これが俺の前いた会社であり、全てはここから始まる。

 

Aさんは社長になり、自分も役員に就任する。

 

といっても最初は貧乏であり、協力もあったが裏切りもあり、一方で新しい出会いや協力者もあり、会社は次第に安定路線を歩みはじめた。

 

本当に寝る間もなく働いたが、充実感はあった。

 

途中、ヒット商品が出たり、テレビでそれが取り上げられたりもあったりして、会社はどんどん拡大していった。

 

数年が立ち、社員や同僚も増えていったが、会社は少しずつおかしな方向に進み始めた。

 

A社長による会社私物化である。

 

清く正しく使われていたお金は、A社長の懐に全てが消えるようになり、A社長はキャバクラを経費でどんどん使うようになっていった。

 

社員には経費を節減しろ、と遠距離でも高速道路を使用させないという節約ぶりなのに、自分は常に例外だった。

 

さらに会社の営業社員の女を愛人にし、その愛人が社長の威光を使い事実上のNo2として威張り始めた。

 

そんな中で、俺の上司だった専務は退職し、俺が仕事上のNo2に就任する。

 

部下と自分自身のノルマもあり、さらに少しでも営業成績が悪いと会議で徹底的に糾弾され、俺の心身は疲弊していった。

 

A社長は俺に対して、サディスティックな感情も芽生えていたのかもしれない。

 

また社長と愛人はすぐに帰り、会社の経費で遊び歩くが、社員には早朝から深夜まで仕事を強制し会社のモラルも次第に崩壊していった。

 

会社の創成期を知る者は自分だけになってしまったが、最初の清く正しい時代を知る者としては、一番最初にいた会社と同じようになってしまったことに俺は複雑な感情を抱かざるをえなかった。

 

「最初は理想を持って新しい会社を作ったのに、どうしてこうなってしまったのだろう?」と。

 

そんな最中、出先で俺は倒れて病院に運ばれたり、ストレスで胃に穴があきかけたり、なによりまだ若いのに下半身が一切立たなくなったこともあって(シモネタすまん)、俺は会社を辞めることを決意した。

 

A社長は今はこんなのだが、かつては尊敬できる上司であり、今の自分を育ててくれた恩人でもあるので、退職する時には多少トラブルもあったが、立つ鳥跡を濁さずで、俺は静かに退職するつもりだった。

 

そして退職後、最後の給料(厳密には役員報酬だけど)が入るはずの日。

 

俺は驚いた。

 

全然金が振り込まれていなかったのである。

 

仲のいい総務の携帯に電話をして聴いたところ

 

「A社長が
『あいつ(俺のこと)は会社を辞めて、俺の妨害をしてまわっている。この前も、取引先に大量の返品をさせやがった』
(もちろん事実無根)と言って支払いさせなかったんですよ。
私はそんなこと駄目だといったら、『社長命令だ』と切れられてしまって」。

 

ちなみに俺は退職後、体が限界にきたのか、内臓疾患で一ヶ月近く寝込んでいたので、そんなことはできっこない。

 

できたとしてもそんなことはしない。

 

「ここまで身を粉にして働いてきて、最後までこの仕打ちかよ」

 

と俺はぶち切れ、Aに仕返しをすることにした。

 

理系の大学を出ている俺は、ある菌を培養する。

 

使うのは食中毒や飛び火の原因になる、黄色ブドウ球菌と表皮ブドウ球菌である。

 

病原菌ではあるが、人間の皮膚にはどこでも住んでいて、通常は悪さをしない日和見菌という奴である。

 

これを選択的に増やすため、卵をかきまぜ、砂糖と塩をぶちこみ、ものすごく塩辛い茶碗蒸しのようなものを作る。

 

ある程度冷えたら、この表面に自分の指をぐりぐりと押し付けて、あとはヨーグルト製造機を37度ぐらいに設定して3日ほど放置。

 

これで危険な病原菌のかたまりの製造に成功。

 

詳しくは「アリエナイ理科ノ教科書」って本に詳しいから、知りたい人は各自調査。

 

仲のいい社員から情報を仕入れ、A社長が関西出張に出ている際に、作戦に協力してくれた口の堅い社員の手引きと見張りで作戦は決行された。

 

A社長宅の鍵は、会社の机の上から入手。

 

深夜、防護服に身を包んだ俺は、その病原菌のかたまりを社長の部屋に塗りたくって回った。

 

そのマンションも会社の費用で借りている部屋だ。

 

仕事で使うスーツのポケット、名刺入れ、宗教の数珠、パジャマにも塗った。

 

布団や枕周辺にも、普通の汚れに見える程度に散布。

 

食事の皿、カップ、歯ブラシにも、水溶液を塗った。

 

作業は30分ほどで終了。

 

翌日散布や製造に使用したものを破壊して捨て去り、あとは情報を悟られないため、前の会社の社員にも告げることなく、別の会社に就職した。

 

後日、唯一協力してくれた社員から電話があり、

 

「どんなえぐい毒を使ったんですか?社長に頼まれてスーツのポケットから鍵を取っただけなのに、俺の手がボコボコに腫れましたよ(笑)」

 

という連絡を受けたので、A社長もひどい目にあったことは想像に難くないが、確認をしていないのでどうなったかは分からない。

 

長くなったけどこれで終わり。

 

書こうか迷ったけど後日談

 

一番最初の会社社長はいまだに活躍。

 

会社も順調だが中はブラックの模様。

 

A社長は全然関係ない病気で亡くなった。

 

因果応報を地でいく展開に。

 

呼ばれたが葬儀はもちろん行かなかった。

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